見上げれば、赤の点描。
春に一面の淡いピンク色で楽しませてくれた桜の木も、いつしかその葉を落として。
新しく芽吹いた命が燃え、咲き、葉を繁らせ、そして枯れてゆく。
飽くことなく、繰り返されるこのリズムには、畏敬の念すら覚える。
ただ一日として、同じ日は無く。
いのちはめぐり、季節は去ってゆく。
かつて。
毎日は、同じように見えた。
無機質な一本道が、延々と、ずっと続いていくようで。
その上を、機械仕掛けの人形のように歩いている感覚が、どこかにあった。
それは、等間隔に並んだ、ぼんやりと光る灯篭の下で、かたかたと同じリズムで音を刻んでいるようで。
いつの間にか、冬になっていて、春が来て。
いつの季節も、モノクロ色に覆われていたような気もする。
寒さ、暑さにいい加減に我慢できなくなって、衣替えをしていた。
ワーカホリックに、働いていたころの話だ。
感情を取り戻すとともに、世界は色を取り戻す。
見れば、赤の果実。
秋が過ぎ、冬がやってきて。
その先に、春があって。
いま見ているのも、実は同じようなものかもしれない。
それは、螺旋階段をめぐるように。
いろんな場所をめぐりながらも、行き先は一つで変わらない。
時候は「金盞香、きんせんかさく」。
冬にも、花は咲く。
足元を見れば、両手を広げた黄色の盃。
そういえば。
息子の飼っているカブトムシも、2匹のうち1匹がとうとう力尽きた。
夏からずいぶんと長く生きてくれた。
また、公園の木の下に、埋葬しに行かなくては。
近くに綺麗な色の花が咲いている場所を、息子と探そうと思う。