大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

トン、トン。

隣の娘が、暗闇の中でごそごそと寝返りを打っていた。

小さなころから寝つきが抜群によかった娘にしては、めずらしい。

「寝れないの?」

「うん」

日中、公園で友だちとたくさん遊んだ反動か、夕食後にうたた寝をしてしまったせいだろうか。

娘にしてはめずらしいが、そんな日もある。

デリケートで寝つきがよくなくて、よく夜泣きをしていた息子に比べて、娘の寝つきのよさには助けられてきたものだ。

「トントン、する?」

「うん、トントンして」

赤子のころ、よくトン、トンと肩を叩いて寝かしつけをした。

最近は勝手に一人で寝付くので、そんなこともしていなかったから、久しぶりだった。

布団の上から、トン、トンとゆっくりと肩を叩く。

いつか、私もそうされていたように。

トン、トン。

トン、トン。

深く、呼吸を重ねながら。

「おとう」

「なに?」

「なんで人間って、」

娘の口から発せられた、人間、という言葉にドキリとする。

その先の質問をあれこれ想像して、一瞬身構える。

「なんで人間て、トントンされると落ち着くの?」

難解なテーマではなかったようで、少しほっとする。

「なんでだろうなぁ」

言いながら、なぜだろうと考える。

トン、トン。

「心臓の音に近いからかな。生まれる前のことを、思い出すから、落ち着くのかなぁ」

そう言う間に、娘はもう寝息をたてていた。

返事は、ない。

トン、トン。

トン、トン。

もう少し、このまま。

トントンと叩いていようと思った。