大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

奇跡の年。 ~2020年菊花賞 回顧

ファンファーレが鳴り、拍手が起こる。

 

この秋のシーズンを最後に改装に入る京都競馬場、その改装前の最後の菊花賞

 

コロナ禍による入場制限がなければ、どれくらいの入場者数を記録したのだろう。

 

春の二冠馬・コントレイルと福永祐一騎手による、無敗の三冠への挑戦。

 

その扉が、開く。

 

逃げ宣言のキメラヴェリテを、セントライト記念を逃げ切ったバビットが追いかける展開。

 

3番枠から好発を決めたコントレイルは、先行集団の5,6番手を追走する。

 

内の荒れた馬場を避けて、各場はちょうど馬場の3,4分どころを通って1周目のスタンド前を通過していく。

 

淡々としたペースに、コントレイルはやや行きたがっているように見える。

 

前走の神戸新聞杯ではぴたりと折り合っていたが、本番仕様の極限の仕上げで余裕がないのだろうか。

 

それとも、やはり3,000mは本質的に長いのか。

 

福永騎手の手と膝が動き、コントレイルは時折頭を上げ、ハミを噛んだままのように見える。

 

外にはぴたりとクリストフ・ルメール騎手のアリストテレスがマークしており、馬群を出すことも難しい。

 

コントレイルにとっては、厳しい形になった。

 

決して適距離ではないであろう淀の3,000m、そして厳しい展開。

 

かつて、同じように無敗三冠に挑み敗れた、ミホノブルボンが思い出される。

 

掌に、いやな汗が滲む。

 

じりじりと焦れるような向こう正面。

 

3コーナー、2度目の坂を越えて下っていく。

 

コントレイルは前にいたディープボンドの外目をついて進出、直線を向いて馬なりで先頭を窺う。

 

しかし、アリストテレスがその外からついてくる。

 

同じ、脚色。

 

先に鞭を打ったのは、福永騎手。

 

それを見て、ルメール騎手も追う。

 

その差、半馬身。

 

こういう形の場合、後から追い出す方が有利だ。

 

大丈夫なのか。

 

しかしその半馬身が、縮まらない。

 

息が止まるような追い比べは、その半馬身の差のまま、ゴール板を通過した。

 

なんとか紙一重で凌いだ、という表現がぴたりと来るような、辛勝だった。

 

コントレイルにとっては、これまでで最も苦しい内容だったのかもしれない。

 

けれど、得意ではないであろう長距離で、かつ正攻法の競馬で、徹底的にマークされながらも、勝ち切った。

 

そしてそれは、無敗での三冠達成を達成する勝利となった。

 

 

いつか、2020年、令和2年という年を振り返ったときに、真っ先に出てくるのは何だろう。

 

おおよそ100年ぶりに、人類が体験した世界規模の感染症だろうか。

 

それとも日の目を見ることなく延期となった、東京五輪だろうか。

 

あらゆる人々に多大な影響を及ぼし、そして転換点となった年であることは、論を俟たないのだろう。

 

そんな年に、三冠馬が出るのは、どこか象徴的なように思う。

 

それも同じ年に、牡馬牝馬同時に、そしてその両方が無敗で、さらに牡馬の方は父と同じ無敗三冠を達成するなど、誰が想像しようか。

 

長い日本競馬の歴史の中で、たった2頭しか成し遂げていなかった無敗の牡馬三冠。

 

昭和59年、「皇帝」シンボリルドルフ岡部幸雄騎手。

平成17年、「英雄」ディープインパクト武豊騎手。

 

そして、令和2年。

 

そのディープインパクトの遺したコントレイルと福永祐一騎手が、その偉業を達成した。

 

父子揃っての、無敗の三冠制覇。

 

同じ時代に生き、その偉業に立ち会えたことは、僥倖この上ないというべきなのだろう。

 

何よりも、歴史上たった二人しか味わったことのないプレッシャーをはねのけた福永騎手には、賛辞しかない。

 

思えば、彼もまた偉大な父のもとに生を受けていた。

 

けれど、それだけに苦しんだであろうことは、想像に難くない。

 

偉大すぎる父性との、葛藤。

 

しかし、2018年のダービーをワグネリアンで制してから、彼の手綱は変わったように思う。

 

どこか、肚をくくったような、観ている者の背筋をゾクリとさせるというか、凄みの感じられる騎乗。

 

コントレイルの皐月賞などは、その白眉だろう。

 

偉大なる父の跡を辿り、無敗三冠を達成したコントレイル、その背にいたのが福永騎手というのが、どうにも美しくて仕方がないではないか。

 

ゴール後、馬上で流す涙を見たのは、ワグネリアンのダービー以来だろうか。

 

美しい、涙だった。

 

 

「競馬とは大いなるマンネリである」、と言われる。

 

けれど、無敗三冠の牡馬と牝馬が同じ年に誕生するなど、生きているうちには拝めないような気もする。

 

無敗の三冠。

 

すぐに、ファンはその先のストーリーを夢想してしまうけれど、まずはその偉業を見られたことの喜びを噛み締めよう。

 

大いなる偉業を達成したチーム・コントレイルの皆様には、心から感謝を伝えたい。

 

おめでとうございます。

そして、ありがとうございました。

 

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