大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

史上初の偉業は、おとぎ話のように。 ~2020年秋華賞 回顧

10月のやわらかな陽光が、ターフを照らす。

 

前日まで降っていた雨は上がり、馬場は稍重まで回復した。

 

感染症対策により高松宮記念から続いた無観客でのGⅠ開催だったが、秋華賞において、ようやく有観客での開催を再開するまでに至った。

 

事前抽選に当選した幸運な方たちだけの入場ではあるものの、それでもここまで開催と止めずに来れたことは、関係者の尽力の賜物なのだろう。

 

そんな秋華賞の注目は、無敗の二冠馬・デアリングタクトに集まった。

 

単勝1.4倍。

 

63年ぶりに無敗で春のクラシック二冠を制し、オークスから直行でこの秋華賞に挑んできた。

 

古くはメジロラモーヌから、スティルインラブアパパネジェンティルドンナ、そしてアーモンドアイ。

 

過去5頭の三冠牝馬は、すべて最後の一冠までに蹉跌を味わっている。

 

無敗での牝馬三冠に挑んだ優駿すら、いない。

 

はいあがろう

「負けたことがある」というのが いつか

大きな財産になる

 

井上雄彦

SLAM DUNKスラムダンク)」31巻 P.164

 

かの名作バスケットボール漫画「SLAM DUNKスラムダンク)」のクライマックス。

 

作中最強のライバル・山王工業の堂本監督は、敗戦を喫した教え子たちの肩を寄せ、そう言葉をかける。

 

その名言を引くまでもなく、負けることというのは、人を強くする。

 

純粋無垢、汚れを知らないというのは、見栄えはいいかもしれないが、ともすれば脆く、弱い。

 

負けを、汚れを、濁を知るということは、強さであり、また美しさでもある。

 

こと競馬においても、同じことが言える。

 

「1着」しかない馬柱は見栄えがいいが、反対に敗れたことがないのは、欠点が見えていないということでもある。

 

包まれると弱いのか、ゲートを待たされると出が悪いのか、ハイペースを追走すると潰れるのか…それまで見えていなかった欠点が露呈した瞬間に、無敗の戦績を誇った優駿たちがあっけなく敗れるのは、競馬の常である。

 

 

「無敗」のまま三冠を制する。

 

そんな前人未到の偉業へ挑む、デアリングタクトと松山弘平騎手。

 

それを阻止せんとするライバルたちは、トライアルのGⅢ・紫苑ステークスを勝ったマルターズディオサに田辺裕信騎手、GⅡ・ローズステークスを勝ったリアアメリアに川田将雅騎手など、春の実績組が中心。

 

オークス2着のウインマリリン、同7着のミヤマザクラも、本番へ直行。

 

トライアルを使わない近年のトレンドは、そのまま主流になりつつあるようだ。

 

一方で、新しい惑星候補に挙げられていたレイパパレは、痛恨の抽選除外となっていた。

 

同じ日の10レース・大原ステークスでその鬱憤を晴らすように快勝を挙げていたが、もし秋華賞に出走していたら…と思わせる脚だった。

 

ひと夏を越して、勢力図の逆転はあるのか。

 

最後の一冠を賭けた決戦は、18頭の牝馬による争いとなった。

 

 

ゲートが開く。

 

小回りの京都2,000m、先手を取らんと各馬が1コーナーに向かって駆ける。

 

13番枠からのデアリングタクトは出た成りで進み、ちょうどその先行争いが切れた後方を行く。

 

先手はマルターズディオサ、その後ろにウインマリリン、ミヤマザクラ、リアアメリアあたりが追走し1コーナーを回る。

 

先団が飛ばし、向こう正面では縦長の展開に。

 

デアリングタクトは、徐々にポジションを中団外目まで押し上げていく。

 

3コーナーに差し掛かり、デアリングタクトは外を通って先頭を視界に捉える。

 

馬群が詰まっていく。

 

4コーナーを回って直線、先頭は内ラチ沿いにマルターズディオサ。

 

松山騎手が選択した三冠ロードは、馬場のど真ん中。

 

残り200m、スパートをかけると、伸びる。

 

その後ろからマジックキャッスルが狙うが、脚色はデアリングタクトだ。

 

史上初の偉業を確信した場内のファンから、拍手が沸き起こる。

 

デアリングタクト1着。

 

史上初、無敗の牝馬三冠達成。

 

鞍上で指を三本掲げる松山騎手。

 

中団から外を回して差し切る、自信を持った見事な騎乗だった。

 

無敗の行く末は、同世代の牡馬との対決か、あるいは古馬への挑戦か、それとも海を渡るのか。

 

どんな夢想も許してくれそうな、三つ目の戴冠の瞬間だった。

 

 

それにしても、デアリングタクト。

 

社台ファームが輸入し繋いできたデアリングダンジグ一族。

その系譜を引くも、近年の一族の実績が伴わず、個人経営の長谷川牧場に売却されたデアリングバード。

種牡馬エピファネイアとの間に産まれた牝馬は、当歳のセレクトセールにおいて同じ父の産駒では唯一買い手がつかなかった。

一年後の1歳馬のセレクトセールで、ようやくノルマンディーサラブレッドレーシングの岡田代表に見初められて落札。

 

そんな馬が、歴史上初めての偉業を達成することになるとは、誰が想像しようか。

 

資本力のある大手生産牧場の寡占が進んでいる近年の情勢を考えると、まさにおとぎ話のようなストーリーではないか。

 

これだから、競馬は面白い。

 

デアリングタクトが走る度に紡がれていくお伽話を、これから心待ちにしたい。

 

 

個人的な話だが、デアリングタクトが1歳馬のセレクトセールに出ていた2018年7月9日、私は同じその場所にいた。

 

苫小牧市ノーザンホースパーク

 

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馬と触れ合えるこの場所を、旅の終わりに仲間たちと訪れた。

 

雄大な北の大地と、その空に癒されていた私の横で、デアリングタクトの運命の歯車が音を立てて動いていた。

 

同じ時、同じ場所で。

 

そう思うと、殊更に2020年の秋華賞は感慨深い。

 

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