「いい営業と、そうでない営業の差って、なんだろうな」
「何ですか、突然」
「いや、何となく…」
「どうせ、またボスに何か言われたんでしょ」
「…そういうところ、すごいよな。カンなのか、よく人を見ているのか…」
「うーん、両方だと思います」
「ほんと、女性はこわい…」
「え、何か言いました?」
「いや、何でもない…それはともかく、いい営業って何だろうな。『御用聞き営業ばっかりじゃ、客に都合よく使われるだけだぞ』ってボスは言うんだけど」
「え?都合よく使われていいじゃないですか」
「いや、そうなんだけど、その顧客にかけた時間とコストの費用対効果がウンヌンカンヌン…半分寝てたわ。でも、いい営業って、何だろうな」
「えー、そんなこと、事務のアタシに聞かないでくださいよ。だいたい営業長いんでしょ?」
「うだつが上がらないだけだよ」
「まあ、確かに」
「おい、否定してくれ…それより、どういう人から『買いたい』と思う?」
「うーん…アタシにとっては、喜んでお金を払う状態に持っていってくれる人、ですかね」
「喜んで、お金を払う、かぁ」
「ほら、人間、コントロールされると、とたんに逃げたくなるじゃないですか。『買え買えオーラ』が出てると、買う気がなくなるというか。そうじゃなくて、自発的に『お金出させて』ってなる営業がいいですねぇ」
「うーん、なるほど…自発的に、かぁ」
「なんだかんだ言って、お金使うのって楽しいですからね」
「たしかに。会社のお金は、なおさら」
「どうせなら、自発的に喜んで使いたいじゃないですか」
「なるほど。でも、どうやったらそうなるんだろう」
「知らないですよ、アタシ営業じゃないんで」
「だよなぁ…逆に、どういう営業はダメかね」
「うーん…まあ、言えるのは面倒くさいのはダメですね。頼まれてもいないのに商品アピールはじめるとか、こっちの時間とか都合ガン無視してくるとか」
「あぁ、たしかに」
「でしょ?」
「でもさぁ、それを避けようとすると、ボスの言うところの『都合のいい営業』になっちゃうような気がするんだよな」
「何がダメなんですか?」
「いや、ダメじゃないけど…」
「なんか、それって『私は都合のいい女にならないの』ってうそぶいてる割に、誰にも相手にされない人みたいですね」
「ぐぇ」
「アハハ、刺さった笑」
「いや、まぁ、な…」
「いいじゃないですか、都合のいいように使われても。ボスの言うことなんて放っておけば」
「まあ、そうなんだけど」
「何がひっかかってるんですか?っていうか、なんで都合のいいように使われることが、そんなに怖いんですか?」
「なんでだろう…都合のいいように使われて、受注が取れなかったら…と考えると怖いのかな」
「へぇ、自信がないんですね」
「ぐぇ」
「あ、刺さった笑」
「いや…」
「あ、瀕死だ…だ、大丈夫ですよ。誰だって、自分にとって都合のいい人が好きですから。話を聞こうと思うのは、自分にとって都合がよくて、心地いい人の話ですよ」
「あ、あぁ」
「だから、お客さんに都合のいいように使われるって、ホメ言葉じゃないですか」
「あぁ…ものは捉えようだな、ほんと」
「そうですよ、ボスの気まぐれに付き合うことないですよ。外で鳴いてる鈴虫みたいに、聞き流しておけばいいんじゃないですか」
『誰が鈴虫だって?』
「あ、ボス…」
「ぐぇ」