大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

断酒日記【648日目】 ~呼ばれたのか、意志なのか。

立秋過ぎた途端に、猛暑日が続く。
梅雨が長かった分、その暑さが堪える。

やはり外気温も体温近くまで来ると、危険な暑さ、という感がある。

そんな残暑厳しい日、自宅の前の道路に、大きな物体が。

よく見ると、カメの甲羅である。

以前にも一度あったのだが、近くの川に住んでいるカメが、お散歩に来てしまったらしい。
アスファルトの熱さに参ったのか、首と手足をすくめている。

水のある川を捨てて何かを求めてきたのか、それとも何かに呼ばれてきたのか。

それは分からないが、甲羅の中にすくめた首をのぞき込むと、黒く光る瞳と視線が合った。

車の往来もあるので、そのままでは危ないと思い、道路の脇に避難させておいた。

クリーニングなどの所用を済ませて戻ってくると、カメは駐車場に停めてあった私の車の後輪の陰に移動していた。

車の下の日陰で、休んでいるらしい。

このままだと、明日の朝、車を出すとき困ってしまう。

そう思ったのは私だったが、一緒にいた息子は、思いがけぬ来訪者をいたく喜んだ。
なにしろ、スーパーマリオブラザースに遊んでもらっている彼のこと、そのカメを「ノコノコ」と呼び、眺めたり突いたりしていた。

やがて、この強い陽射しで乾燥してかわいそうなので、水浴びをさせてあげたいと言い出し、私はマンションの部屋からバケツに水を汲んでくる羽目になった。

ジョウロと水鉄砲で、乾燥したカメの甲羅を濡らしてあげる息子と娘。

水がなくなると、また汲みに行かされる私。

駐車場に打ち水をしたようになり、少し涼しくなったような気がした。

明日もまだいるかなぁ、としきりに息子は気にしていたが、残念ながら翌日の早朝、私が見たときにはすでにその姿はなかった。

息子は、寂しがっていた。

川に戻ったのだろうか。
それとも、どこかへ何かを探しに行ったのだろうか。

それは、よく分からない。

そもそも、なぜ安住の地である川を離れて、ここまで来たのだろう。

それは、カメ本人に聞いてみないと分からない。

いや、聞いても分からないのかもしれない。

安住の地に何か変化があったのか、あるいは何か抑えきれぬ衝動か。それとも本能か。

それは、分からないが、彼の大きさからすると、遥か遠くまで歩いてきたことは事実なようだ。

そういえば、私が断酒を決めたのも、あの川の橋の上で、息子と娘とカメにエサをやっているときに、「ふと」決めたのだった。

それ意志なのか、それとも呼ばれたのか、よく分からない。

けれど、そんな断酒も、もう648日を数えるまでになった。

何のために始めて、どこへ行くのか、分からない。

時にそんなことも、あってもいい。

あのカメの行軍も、そんな感じだったのかもしれない。

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そのカメが住んでいた川沿い。ここに戻ったのだろうか。