大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

本気になる、全力を尽くすことへの怖れ。

本気になれない症候群、というものがある。

 

本気になれば、自分の力はこんなものじゃない。

 

あるいは、本気になるのが怖い。

 

だから、本気にならない、全力を出さない。

 

耳の痛い話ではあるが、誰にでも思い当たるフシがあるのかもしれない。

 

本気になることが怖いという心理には、二つの要因が考えられる。

 

 

ひとつは、傷つくことへの怖れ。

 

あなたは、とても好きで好きでたまらないものに、夢中になっていた。

 

けれど、誰かの心ない一言で、冷水を浴びせられたようになった。

 

「〇〇さんの方が、上手いよね」

「それだけ練習してるのに、才能ないのかもね」

「そんなことして、何になるの?」

 

自分にとって大切なものであればあるほど、それを貶されたときの傷は深い。

 

そして、自分にとって大切なものであればあるほど、「それは他人にとっても大切なものであるはずだ」と思い込む。

 

そうでないと分かったときの傷は、深く、心に刻まれる。

 

もう一つは、恥ずかしさ。

 

もし全力を出して失敗したら、恥ずかしい。

 

ほんとうに好きな人には、フラれたくないからこそ、告白できないように。

 

ほんとうに好きなものほど、本気にならないようにしてしまう。

 

他人と比較することの多い思春期に多い思考だが、大人になっても、そうした「恥ずかしさ」を引きずってしまうものだ。

 

それは思考の癖となって、私たちを本気になることや全力を尽くすことを遠ざける。

 

 

怖れと、恥ずかしさ。

 

本気になりたいもの、全力を出したいときに、必ず出てくる厄介なものである。

 

逆に見れば、怖れ、恥ずかしさを覚えるものは、自分にとってそれほど大切なものであるとも言える。

 

それらを感じることが悪いことではない。

 

本気で怖いと感じるならば、本気でやりたいことを見つけた、と同義なのだから。

 

まずは、それを感じることから始まる。

 

そして、本気になる、全力を尽くすということは、「それ」以外のことを気にしない、ということだ。

 

結果も、怖れも、未来も、評価も、成果も、過去も、傷も、何もかも、気にしない。

 

ただ、そのことだけを考えている、没頭している、ということ。

 

ただ、その瞬間に無心になる、ということ。

 

そして、無心になるということは、ある意味でコンパスなく大海に漕ぎ出すことに似ている。

 

 

あなたは、この海をオールで漕ぎたくなった。

 

それがなぜだか、わからなけれど。

 

ただ、漕ぎたくなったのだ。

 

漕ぎたくなったから、あなたは海へ出てオールを漕ぎ始める。

 

ただ、オールで漕ぐこと自体が、楽しくて、楽しくて、仕方がなくて。

 

時間を忘れ、音を忘れ、空腹も忘れ。

 

ただただ、オールを漕いでいた。

 

けれど、ふと周りを見渡すと、そこには水平線しか見えない。

 

はっと我に返り、もしかしたら自分は何か、とんでもないことをしでかしてしまったのではないかと怖くなる。

 

慌てて全力で、もといた場所に戻ろうと、またオールを漕ぐ。

 

あれだけスイスイと進んでいたはずなのに、オールが重く重く感じる。

 

気付けば、太陽は遠くの空に沈みかけて、空の色が変わり始めている。

 

心臓は早鐘のように鳴り、オールを持つ手が震えだす。

 

目の奥がちりちりとして、喉の奥はひりひりと痛みだす。

 

夕闇がすべてを包み込む前に、ようやく元の陸地が見えてくる。

 

震える手に力を込めて、オールを漕ぐ。

 

砂浜に辿り着き身体を投げ出し、真っ暗になった空を眺めて、ようやく深呼吸する。

 

ふらふらになりながら家へ帰ると、矢継ぎ早に罵声を浴びせられる。

 

こんな時間まで、何をしていたんだ。

 

どこをほっつき歩いていたんだ。

 

オールが何だって?そんなことより、心配させやがって。

 

まるで極悪人のように叱責される。

 

ただ、オールを漕いでいただけなのに…もう二度とやらない、と固く誓う。

 

あるとき、ふと流れてきた画像で、オールだけで遥か彼方の大陸へ渡ろうとしている人の姿が映し出されるのを見る。

 

その画像に、なぜか胸がどうにも疼く。

 

確かな熱を持った熾火は、いつから胸で燻っていたのだろう。

 

その火は、種火となってちりちりと喉の奥を焦がす。

 

夜になって床に就いても、あのオールを漕ぐ手の感触が思い出される。

 

中天で燦々と輝く陽の光の色が、瞼の裏側に映る。

 

あのまま漕ぎ続けたら、どこへ行けたのだろう。

 

寝苦しくて、あなたは寝返りを打つ。

 

やはり眠れないので、ごそごそと物置を開けて、あのときのオールを引っ張り出す。

 

オールを握った感触が、脳内に残る記憶をよみがえらせる。

 

同時に、あのとき言われて傷ついた言葉たちを思い出し、あなたは躊躇する。

 

こんな夜更けに、なんて意味のないことをしているんだ。

 

時間の無駄だ、早く寝たほうがいい、明日も忙しいぞ。

 

懲りない奴だな、またあんな思いをするつもりなのか?

 

あなたの内なる保護者は、そうやってあなたを理で諭す。

 

けれど、あのときと同じ香りがオールから漂い、鼻腔をくすぐる。

 

あなたの内なる少年は、その湧き起こる衝動に降参する。

 

たまらなくなって、オールを両手で抱きしめる。

 

あなたの瞳は輝きを帯びる。

 

今日は、これを抱いて眠ろう。

 

さあ、いつ、これを漕いでみようか。

 

あなたは、その予定を考え始める。 

 

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光の織りなす色の芸術。

 

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