大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

ターフに散らばる奇跡を集めて ~2020年桜花賞 回顧

毎年開花が早くなる桜の開花宣言を聞くと、桜花賞まで咲いているか心配になる。

 

桜はその潔い散り方が美しいと言えど、やはり桜花賞のスタート地点には、あの淡いピンク色で彩って欲しいと思うのは、私の身勝手だろうか。

 

桜花賞は、美しいレースだ。

 

施行時期は、4月の第2週の日曜日。

 

仁川の阪神競馬場で行われる、クラシック競争の第1弾。

 

3歳牝馬という、人間でいえば高校生くらいのうら若き乙女が、桜の下でその速さを競う。

 

初めて競馬に触れた頃から、私の大好きなレースの一つである。

 

 

今年は、そんな桜の心配よりも、もっと深刻な状況下にあった。

 

楽しみにしていた春の中京開催が無観客競馬となり、高松宮記念すらも観に行くことが叶わない。

 

けれど、軒並み延期や中止となる他のスポーツイベントや、すぐに開催中止となった多くの海外競馬の状況と比すれば、中央、地方競馬ともに開催されていること自体が奇跡なのだろう。

 

状況は、日に日に悪くなる一方だった。

 

万物清らかに輝く清明のころを迎えて、政府から緊急事態宣言が発令された。

 

いよいよ、その日が来るかと私は覚悟した。

 

一生に一度のクラシック開催を前にして、登録された18頭に関わる多くの関係者のことを考えると、暗澹たる思いがした。

 

それでも、考えてみれば。

 

桜花賞に限らず、その日そのレースに出走するサラブレッドの走りは、「生涯一度きり」なのだ。

 

その奇跡が、いかにこれまで連続していたかに、思いを馳せたくなる。

 

 

競馬開催は、続行されることになった。

 

開催に漕ぎつけた関係者のさまざまな尽力には、頭が下がる。

 

去年一年間で、3,000億以上の国庫納付金が納められているとか、エクスキューズはいくらでもできるし、その反対に批判することも、いくらでもできよう。

 

こんなときに、と言われるかもしれない。

 

それでも。

 

こんなときにこそ、と私は思うのだ。

 

美しいレースが今年も開催されることで、私の胸は躍った。

 

競馬を見始めた頃のように、テレビの前で高鳴る胸を抑えていた。

 

 

無観客の寂しさゆえか、それとも開催できる喜びゆえか。

 

花散らしの強い雨が、仁川の芝を濡らしていた。

 

入場曲「ザ・チャンピオン」に導かれ、うら若き乙女18頭が本馬場入場していく。

 

渋った馬場を味方につけるのは、どの優駿か。

 

無人のスタンドに、関西GⅠのファンファーレが鳴り響く。

 

五分のスタート。

 

私は17番のレシステンシアと武豊騎手を注目していた。

 

平成最初の桜花賞を、シャダイカグラを名騎乗で勝利に導いたレジェンド。

 

令和初の桜花賞にふさわしいのは、彼の手綱に思えた。

 

好枠を活かしてハナを主張するスマイルカナと柴田大知騎手の後ろに、するするとピンク帽・キャロットの勝負服が取り付いていく。

 

どれくらい、脚を使っているのだろう。道悪の中、どうなんだ。

 

半マイル46秒とアナウンサーが告げる。

 

インコース有利だったゆえに「魔の桜花賞ペース」がよく刻まれた改修前と比べて、近年は落ち着いた道中が多かったが、重馬場で46秒は早いような気がする。

 

余力は、あるのか、どうなのか。

 

 

勝負の4コーナーを曲がり、粘る粘るスマイルカナ。

 

武豊騎手の左鞭に応えて、レシステンシアが伸びてくる。

 

平成初の桜の男は、令和でも最初か。

 

そう思った刹那。

 

泥まみれの青鹿毛が、力強い足取りで差し切っていった。

 

デアリングタクトと松山弘平騎手。

 

強かった。

 

平成生まれの鞍上が、高々と左手を上げる。

 

平成から、令和へ。

 

時代が交錯する、雨の桜の下。

 

血統を見れば、祖母にシーザリオデアリングハートの名。

 

桜にゆかりの深い、2頭の名牝。

 

その血を継ぐ彼女は、日高の長谷川牧場からやってきた。

 

ターフに散らばる奇跡を集めて。

 

こんなときだから、サラブレッドが走る奇跡が沁みる。

 

ありがとう。

 

また、私は桜花賞が好きになった。

 

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