「よんえるでぃーけーがつくりたい」
週末の夕方、息子がそう訴えてくる。
ほう、そうきたか。
先般、すったもんだしながらマンションを建設してからも、地下鉄の駅で配っているマンション・賃貸住宅の無料広告雑誌をしげしげとながめている息子が、そう言いだすのは至極自然な流れと言えた。
今回も、どうやって作るのかはわからないが、息子は作りたいのだ。
そして、これまでの経験則上、その「つくりたい欲求」は、お茶を濁すことはできない。
どうしても、つくりたいのだ。
=
とはいえ、午後からブチ込まれた建設計画に、私は難色を示す。
きょうは、いまから買い物行って、あれしてと、これしないといけないから…いままで、さんざん遊んだだろう?あしたにしよう?
理で諭そうとする私に、息子は「ヘルメットを被らないで自転車乗る作戦」で反抗を示す。
無理解、対立、口論、無関心、和解、譲歩、駆け引き、復讐、愛…人間関係の一通りのプロセスを歩んで、結局のところいつも通り、私が折れる。
理は情熱には勝てないのだ。
重い腰を上げ、その「4LDK」の竣工をはじめる。
前回のマンションは、どれくらい時間がかかったんだっけ…ノッポさん、本当にヘルプに来てくれないかな…と遠い目になりながら。
突貫日程などおかまいなしに、工程ごとに厳しいチェックとクレームが入る。
厳しい施工主だ。
=
今回の進歩は、施工主から設計図が出てきたことだ。
見よ、この完全なる4LDK。
この図面の通りに、工事を進めねばならぬ。
納期、工材、工数、技術…足りないものを数えはじめれば、両の手では足りない。
されど、諦めることなどできはしない。
すでに、工事は始まっているのだ。
紆余曲折を経て、完成したのがこの建築。
施工主の希望で、今回は平屋の一軒家となった。
さすがに納期が間に合わず、翌日の完成・引き渡しになってしまい、大クレームを頂いたが、それもまた今となっては懐かしく思える。
入り口と窓ガラスには、前回のマンションで作成した際の工法を踏襲。
サランラップで窓ガラスを再現し、そして上下にレールを付けて可動式にしている。
施工主から窓枠の歪みにクレームが入り、何度も作成し直したのも工期を遅らせた一因ではあるが、何とか納品することができた。
天井を外すと、こう。
紛うことなき、4LDKだ。誰がどう見ても、4LDKだ。4LDKということにしておこう。
気の早い入居者たちのために、じゅうたんやカーテンを完備させて頂いた。
ダイニングテーブルは質感にこだわった逸品。
これは施工主自ら作成して頂いた。
キッチン、そしてリビングにソファ、人数分の椅子など。
施工主の細部に渡る指示に応えるつくり。
昨今、海外調達を進める企業が多い中、トイレも自前で作成。
おかげで、部材の納入待ちで引き渡しができないといった問題もなく、納期を詰めることができた。
前回と同じように、夜の灯りを付けてみる。
やわらかな、ランタンの光。
カーテンのおかげで、さらにやわらかな生活光を再現することができた。
満足げにその光を眺める息子。
やりたいことに、わがままであれ。
好きなことに、愚直であれ。
理に、流され過ぎることなかれ。
そして、童心を、忘るることなかれ。
小さな施工主からの教えを、私は再度反芻する。
カッターナイフとハサミを使い過ぎたせいだろう、ひりひりと指が痛かった。