大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

どうやったら苦手な相手をやり過ごすことができますかね、と彼女は言った。

「はぁ…(チラッ)」

「… … …(しーん)」

「ふぅ……(チラッ)…はぁ…(チラッ)」

「… … …(しーん)」

「もう!『かまってくださいオーラ』を醸してるんですから、ちゃんとかまってくださいよ!」

「なんだなんだ、朝イチから…始業前くらい、ゆっくり瞑想させてくれよ」

「いやいや、瞑想というか熟睡してただけでしょうが…それより、聞いてくださいよ」

「あぁ、どうした」

「アタシ、毎朝会社の前のコンビニに寄るんです」

「ほうほう」

「そこで、カフェラテを買うのがアタシの日課なんですけど」

「あぁ、いつも飲んでるね」

「どうにもそのコンビニの店員が苦手で」

「まぁ、あるよね。だって、にんげんだもの」

「ええ、にんげんだもの…って、そりゃあそうなんですけど、それ言っちゃったら全部解決しちゃうじゃないですか」

「まあねぇ…で、具体的に何が苦手なの?」

「アタシ、低血圧なんで、朝は苦手なんです。そりゃあもう、毎日決死の覚悟で起きてるくらい」

「そうか、朝が苦手なのか。低血圧は辛いよな」

「ええ、おまけに毎晩AmazonプライムとNetflixが寝かせてくれなくて」

「それは低血圧というより、単に寝不足なのでは…」

「いや、きっと低血圧です!だって、ダルいんですから!…で、そんな朝はゾンビみたいなアタシなんですけど、そのコンビニの店員は朝からめっちゃテンション高くて」

「ほう、それはすごいな」

「アタシ、朝は一言もしゃべりたくないんですけど、なぜかその店員に顔を覚えられてるみたいで、めっちゃ挨拶プラスアルファの会話をされるんです」

「一言もしゃべりたくないって言ってるわりには、よくしゃべるもんだなぁ。これだから女の言葉は信用ならねぇ(それはそれは、朝のテンションが低いところに来られると大変だよね)」

「ちょっとちょっと、逆です、逆!セリフと心の中のつぶやきが!」

「おぉ、すまんすまん、つい…でも、顔覚えられて挨拶プラスアルファの会話って、めっちゃ愛されているよな。男の店員さん?」

「いえ、女性です。少し年齢高めの」

「いいじゃん。愛されてるってことで」

「えー、苦手というか、めんどくさいんですよ」

「じゃあ、行かなきゃいいじゃん」

「だって、行かないとカフェラテ買えないじゃないですか」

「家の近くとかのコンビニで買っていけば?」

「ぬるくなっちゃうんで、イヤです。それに、何かその店員が苦手で、行く店を変えるのはなんか負けたような気がしていやなんです」

「別に負けたっていいじゃないの。にんげんだもの」

「だから、それを言ったら何でもよくなっちゃいます」

「まあなぁ…分からんでもないけど、競争から降りると楽になるかもね」

「それはまた今度でいいです。なんか、苦手な相手をやり過ごす方法ってないですかね?」

「まあ、避けられるのなら、避けるのが一番だよね。苦手な相手にわざわざ会いに行ったり、時間を使うのはほんとにムダだと思うから」

「そりゃ、わかりますけど…でも、どうしても会わないといけない場合、どうします?苦手なお客さんとかって、いないですか?」

「いるよ、そりゃ。いるいる。だって、にんげんだもの」

「…しつこいです。そういうお客さんに会うとき、どうしてるんですか?」

「あぁ、これは結構シンプルでさ。『この人のいいところは、何だろう。この人の魅力って、なんだろう』って視点で、その相手を見てみるのさ」

「美点凝視…ですか。なんか、ありきたり」

「おぉ、よく知ってるな。でも、真実はシンプルなんだよ、きっと」

「そうなのかもしれないですけど…」

「やってみたこと、ある?」

「いや…なんか、難しいですよね。わざわざ、苦手な人のいいところを見つけようとするなんて」

「そうなんだよ。でも、そういうときは秘策がある」

「え、何ですか、秘策って」

「その苦手な人に会うことが分かってるなら、会う前に『自分のいいところって、何だろう。自分のステキなところって、なんだろう』って自問してみるの」

「へぇ。それで変わるもんなんですか」

「変わる。これは断言する。ただし、そこで『あぁ、やっぱりそんなものあるわけないわ』ってなっちゃったらダメね。『かならず、ある』って前提で自問してみるの」

「ほぇ~、そんなもんですか」

「そんなもん。そうするとね、自分の中に見るその魅力を、相手に投影するから、苦手だと思ってた人に会っても、あんまり気にならなくなる。そんで、『あ、こんなとこがこの人のいいところかな』って気づいたりする。そうすると、憎めなくなるよね、苦手な相手も」

「へぇ…やっぱり、亀の甲より年の劫ですかね」

「あたりまえだろ、もっと褒め称えよ、俺様を(いや、そんなことないよ、まだまだ修行が足りないよ)」

「えぇ…逆、また逆になってる!でも、それくらいでちょうどいいのかも」

「そうかね。どうもありがとう」

「いえ、こちらこそ。 伊達に長く営業してないですから」

「そうですねぇ…これで営業成績が伴っていればねぇ…(やっぱり、経験があるって、すごいですね!)」

「おい、逆、ぎゃく!!!」