ここのところ、雨が降ったり止んだりしている。
夜半に降る雨、日中に降る雨。
まだ冬のような冷たい雨、どこか暖かな気配の雨。
湿った香りのする雨、柔らかな雨。
一つ一つの雨に、表情があるようだ。
この「雨水」の時期に降る雨を、「催花雨(さいかう)」と呼ぶことがある。
植物の成長を助け、花が咲くことを催す雨。
「雨水」に降る雨には、そんな美しい名がついている。
七十二侯では「草木萌動(そうもくめばえいずる)」の時候。
足もとや木々の枝の先に、ほのかな緑に色づき始めた新芽を見るころ。
草木は芽吹き、眠っていた生命が目を覚ます。
春、近し。
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陰の世界から、陽の世界への、転換点。
その転換期には、やはり陰の部分が出やすいのかもしれない。
三寒四温の言葉の通り、暖かさは寒さとともにやってくる。
それは人の感情にしても同じで。
どうしても怖れ、怒り、悲しみ、自己否定などが出やすいのが、この時期のようにも思う。
そうした「怖れ」といった部分は、遠ざけたくなるものだが、それを認め受け入れることが大切なのだろう。
「ああ、寒さが戻ったね。そういう時期も通っていくんだね」
と言うのと同じように、
「ああ、怖いんだね。自分の中に、まだそういう部分があったんだね」
と。
否定して抑え込もうとすればするほど、抑圧されたそれらの声は大きくなる。
寒と暖とをいったりきたりしながら、季節はめぐっていく。
陰と陽とを繰り返しながら、世界は回っていく。
怖れと愛を両の手に抱きしめしながら、人生は進んでいく。
ただ、流れのままに、あるがまま。
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その繰り返しのはざまに降るのが、催花雨なのかもしれない。
寒と暖のあいだに、陰と陽のあいだに、怖れと愛のあいだに。
潤いと、恵みと、喜びを。
催花雨に緑は萌え、春は訪れる。