大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

あとから見れば、どうでもいいことに人は頭を悩ませるものだと実感した話。

地下2階の駐車場に着いたのは、アポイントの20分前だった。

 

市内中心部の渋滞を考慮したつもりだったが、予想以上に順調に着くことができたようだ。

 

乗り慣れない社用車でも、まあ運転できるものだ。

 

薄暗い車内で少し休もうか、スマホSNSでもザッピングしていようか、それともなかなか日中には来ないこの近辺を散策でもしていようか、と思案していた矢先。

 

メーターパネルに目が留まる。

 

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左のこの計器は、ガソリンの残量のことだったっけか…そういえば、出がけから気にしていなかったが…「E」といえば、「空っぽ」…?

 

ガソリンが、空?

 

それまで余裕をぶっこいていたのに、急に背筋が粟立つ。

 

元来、極端にメカに弱い私である。

 

こうした車のトラブルになると、まったくダメである。

 

瞬間的に、思考回路のスイッチが前回になったようで、様々な情報と予測が頭をよぎる。

 

いやいや、計器のメーターが地に埋まるくらい下を向いているぞ…あとどれくらい走れるんだろう…一番近いガソリンスタンドまでは、どれくらいあるんだろう…

「E」のところまでメーターが示してから、どれくらい走れるんだろう…スマホで調べてみても、まちまちだな…そもそも、いつ「E」のところに来たのか、見ていなかったしな…

スマホで調べると2キロほど離れている…たどりつけるだろうか…2キロとはいっても、この市内中心部の交差点の多さと渋滞で、結構かかるだろう…もしたどりつくまでにガス欠になったら…

そうなる前にJAFなりに来てもらって給油した方がいいのかな…でも、高いよな…前に高速道路でお世話になった時(前科者である)は、10リットルで2万くらいかかった気がする…ガソリンを買って何かに入れて持ってこれないかな…絶対無理だよな…

ガソリンスタンドまでプロジェクトXばりの難しいチャレンジをするか、それとも4枚目の北のような安牌を求めてJAFを呼ぶか…難しい二択になった…

 

たかだか十分ほどの間に、これらのことをぐるぐると頭の中が去来する。

 

その二択に答えを出せぬまま、アポイントの時間が近づいたために車を降りて駐車場を出た。

 

 

地上に出ると、少しだけ雨がぱらついていた。

 

どうも足元がふらふらして、落ち着かない気がする。

 

メンタルが身体に与える影響というのは、想像以上に大きいものだ。

 

先週移転したばかりという先方の店舗には、所狭しと胡蝶蘭が飾られていた。

 

ふわふわとした足取りでは、うっかりすると蹴飛ばして倒してしまいそうで、余計に気を遣う。

 

打合せが始まっても、「心ここにあらず」、「気もそぞろ」とはまさにこのこと、というようなソワソワ感で仕方がない。 

 

チャレンジャーになるか、JAFを呼ぶか…

 

その二択がぐるぐると頭をよぎりながら、打合せの時間はカフェラテの泡のように消えていった。

 

先方に挨拶をして、エレベーターの扉が閉まった瞬間から、私の心臓はビートを早めた。

 

雨は降っていなかったが、どんよりと薄暗い雲が広がっていた。

 

小走りに先ほどの地下の駐車場に戻り、車の後部座席に荷物を載せ、運転席に座って一息つく。

 

勝負しよう、チャレンジャーになろう。

たかだか2キロ、何とかなるはず。

 

ごくりと唾を飲み込み、キーを差してエンジンをかける。

 

そのとたん、ガソリンのメーターが「ぐいん」と元気に反応した。

 

水平まで戻って、ガソリンの残量がまだ半分は残っていることを示していた。

 

そりゃ、そうか。

 

エンジンを切れば、計器のメーターは落ちるものだ。

 

そのメーターを見て、 一人で騒いでいただけのことだったのだ。

 

私は苦笑しながら、胸をなでおろした。

 

あとから振り返って見てみれば、こんなどうでもいいことに、人は頭を悩ませるものだ。

 

JAFを呼ぶか、否か。

 

そんな問いにエネルギーと心労をかけていた自分が、馬鹿らしくなる。

 

じゃあ、最初から悩まないことが正解か?と言われると、そうでもない。

 

それでも、そのときは「ガソリンが空だ」としか見えないのだから、しょうがない。

 

きっと私は、空だと思って、焦って、ドキドキしたかったのだ。

 

そして、ほんとうはガソリンが残っていることが分かって、安心したかったのだ。

 

その感情の起伏こそが、生きている、ということなのだろう。

 

そんなことを考えながら、私はまた市中の幹線道路を走らせていた。

 

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