アスファルトから立ちのぼる、むせるような熱気にあなたは顔をそむける。
蝉が、鳴いている。
ふっとため息を一つついて、あなたは今日の予定に頭をめぐらせる。
よりどりみどりとも言えるし、ただ単に忙しい、とも言える。
あなたはもう一度、ふうっとため息をつく。
優先順位をつけようと、あなたはもう一度頭をめぐらせる。
何を、やらなければいけないんだっけ。
何を、やりたいんだっけ。
思いのほか、その答えは難しいことに、あなたは気付く。
「何かをしなければ」という想いの裏には、
「何かをしなければ、私には価値がない」という意識が深いところで横たわっている。
「頑張って身につけたもの」で自分の価値を認めていると、
「それがない自分には、価値がない」という前提が深いところで働いている。
ほんとうのところ、そんな鎧や盾はいらないことを、あなたは知っている。
だからこそ、その鎧や盾で閉じこもる時間が必要だったのかもしれない。
いままで、守ってくれて、ありがとう。
さて、どうしようか。
あんみつかところてんを選ぶときのように、軽やかに選ぼう。
また立ち上ってきたアスファルトの熱気から逃れるように、あなたは顔を見上げる。
紺碧の色を見上げて、あなたは夏の訪れを知る。
夏は、どこへも行っていなかった。
あなたは、どこへも行っていなかった。
どこへも、行く必要がなかった。