大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

無題

アスファルトから立ちのぼる、むせるような熱気にあなたは顔をそむける。

蝉が、鳴いている。

ふっとため息を一つついて、あなたは今日の予定に頭をめぐらせる。

よりどりみどりとも言えるし、ただ単に忙しい、とも言える。

あなたはもう一度、ふうっとため息をつく。

優先順位をつけようと、あなたはもう一度頭をめぐらせる。

何を、やらなければいけないんだっけ。

何を、やりたいんだっけ。

思いのほか、その答えは難しいことに、あなたは気付く。

「何かをしなければ」という想いの裏には、
「何かをしなければ、私には価値がない」という意識が深いところで横たわっている。

「頑張って身につけたもの」で自分の価値を認めていると、
「それがない自分には、価値がない」という前提が深いところで働いている。

ほんとうのところ、そんな鎧や盾はいらないことを、あなたは知っている。

だからこそ、その鎧や盾で閉じこもる時間が必要だったのかもしれない。

いままで、守ってくれて、ありがとう。

さて、どうしようか。

あんみつかところてんを選ぶときのように、軽やかに選ぼう。

また立ち上ってきたアスファルトの熱気から逃れるように、あなたは顔を見上げる。

紺碧の色を見上げて、あなたは夏の訪れを知る。

夏は、どこへも行っていなかった。

あなたは、どこへも行っていなかった。 

どこへも、行く必要がなかった。

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