大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

時間をかけることを覚悟すると、時間が進む。

時間をかけることを怖れると、時間が止まる。
時間をかけることを覚悟すると、時間が進む。

時間という霊薬は、かくも不思議な効用を持っているようだ。

夕飯を摂っているいると、一匹のコバエが主菜のお皿に入ってきた。

見ると、テーブルの上からもう一匹、飛び立っていった。

またあそこにコバエがわいてしまったか、と思った。

去年の夏のおわりに、息子の希望でカブトムシの幼虫を買ってきて虫かごで飼い始めた。

kappou-oosaki.hatenablog.jp

カブトムシが幼虫から成虫へと羽化するのは梅雨明けくらいなので、夏の終わりから飼い始めると約1年間ほども飼わないといけないのだが、息子の「ずっとお世話する!」とカブトムシ熱にほだされて、8月の終わりから飼い始めた。

虫かごに入れたカブトムシの幼虫用の土の中に入れてあげて、乾燥しすぎないようにたまに霧吹きで湿らせる。

土の中に幼虫の糞がたまってくるので、2か月に一回くらい、土をふるいにかけて糞を取り除いてやる。

お世話といってもそれくらいなのだが、土が栄養の多い土らしく、たまにコバエが大量にわいてくるのが難儀だった。

虫が入らないタイプの虫かごを使っているのだが、どこから入ってくるのか、土にもともと卵があったのか、たまにわいてくるのだ。

そうなると、土を新しいものに全部入れ替えてあげるというミッションが発動される。

そのたびに、大きくなった幼虫を見ては、息子は喜んでいた。

今回も、部屋の中にコバエがわいて往生するので、土を入れ替えたい。

ただ、幼虫は5月ごろにサナギになり、「蛹室」という小さな部屋を土の中に作って、1か月ほどその中で何も食べずに過ごす。

その「蛹室」はサナギになる前の幼虫が最後の力を振り絞って作るため、一度壊れると自分では二度と作れないらしく、春先以降はなるべく土を替えない方がいい、と聞いていた。

その時期はだいたい5月頃で、そこから約1か月サナギとして過ごし、梅雨明けくらいにようやく成虫として土の中から出てくるらしい。

その日はまだ4月も始め。

さすがにあと2,3か月、この大量発生したコバエと過ごすわけにもいかないため、まだサナギになっていないだろうと思い、最後の土の入れ替えをすることにした。

息子と一緒に、慎重にコバエのわいた虫かごの土を掘り進める・・・

半分くらい土を除いたところで、ぽこっとした空間が空いていた。

まさか・・・と思い、さらに慎重に少しだけ掘る・・・

いた。

サナギだ。

あの白い青虫のような身体だった幼虫は、2匹とも角を生やした茶色の立派な身体のサナギに見事に変わっていた。

「ようちゅうが、さなぎになってた!」

と興奮する息子。

初めて見る本物のサナギに驚き、生命の神秘に呆然とする私。

そういえば、私が子どもの頃、幼虫を飼ったことはなかった。

幼虫から成虫まで育てることに成功したブリーダーは、学校のクラスで英雄扱いされたものだった。

小さな先生は、私の子ども頃の夢を叶えてくれるようだ。

とはいえ二度と作れない「蛹室」を壊してしまった失敗に焦り、慌ててネットで「人工蛹室のつくり方」を調べる。

一番簡単なのは、トイレットペーパーの芯を使う方法だったので、その方法で人工蛹室をつくり、サナギを寝かせる。

無事に羽化して成虫になってくれることを、祈りながら。

普通は5月くらいにサナギになるのに、そこから1か月も早くサナギになっているとは、驚きだった。

もちろん、室内で飼っていたため自然下よりも気温が暖かく、また栄養価の高い土で育てていたこともあるだろう。

けれど、去年の夏の終わりに、息子に聞いた質問を思い出す。

「いまから幼虫飼うと、来年の夏前までほぼ一年間お世話せなあかんけど、ほんとにええの?」

「いいの!」

その息子の「一年間面倒を見る」という覚悟は、 幼虫たちの時計の針を進めたのかもしれない。

時間をかけることを覚悟すると、時間は進む。

逆に時間をかけることを怖れたり嫌がったりすると、時間が止まるのかもしれない。

やりたいこと、
伝えたいこと、
たどり着きたい場所、
味わいたい感情。

どれだけ時間がかかっても、それをやりたいのか。
どれだけ時間がかかっても、それを伝えたいのか。

どれだけ時間をかけてでも、そこにたどり着きたいのか。
どれだけ時間をかけてでも、その感情を味わいたいのか。

もう一度、私も内省してみようと思った。

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底に湿らせたキッチンペーパー、そしてトイレットペーパーの芯、あとは動かないように固定するためのスポンジなど。

緊急で作った人工蛹室だが、無事に羽化してくれることを願いながら、毎日息子とトイレットペーパーの芯を覗いている。