大嵜 直人のブログ

別れによって傷ついたココロは、出会いで癒される。私が辿ったそんな物語を「書く」ことをライフワークにしています。

I was there. ~第38回ジャパンカップ 観戦記

平成最後のジャパンカップを観戦に、東京競馬場を訪れた。

 

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ジャパンカップを現地で観戦するのは初めてである。

 

振り返ってみると、府中を訪れたのもエイシンフラッシュが勝ったダービー以来だから、約8年ぶりである。

 

ずいぶんと離れてしまったものだ。

時が流れるのは、早い。

 

京王線府中競馬正門前駅で降りて、正門までの道を歩く。

 

久しぶりに訪れる府中は、記憶と変わらず大きかった。

 

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違うのは、以前の記憶はダービーの新緑の緑だったのが、晩秋のオレンジ色になっていたことだった。

 

スタンドに出てみる。

 

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青い空、白い雲、緑の芝、人々のざわめき。

 

どうしてこの景色を見るだけで、心は踊るのだろう。

 

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朝は風が冷たかったのだが、府中に着くころには上着が暑いくらいの陽気になっていた。

 

スタンドの陽の下にいると、あと1週間もすれば師走ということを忘れてしまいそうだ。

 

 

今回のジャパンカップは、牝馬三冠を達成したアーモンドアイが、古馬との初対戦でどんな走りを見せるのかに注目が集まっていた。

 

ファンはその三冠で魅せたその圧倒的な破壊力の末脚を信じ、単勝1.4倍という数字で支持した。

 

そして、その天才少女を迎え撃つ歴戦の古馬勢たち。

 

天皇賞・秋で致命的なスタートの不利を受けて大敗していたが、今年の大阪杯を制しているスワーヴリチャードとミルコ・デムーロ騎手。

 

前走の京都大賞典で復活の狼煙を上げた2年前のダービー馬・サトノダイヤモンドジョアン・モレイラ騎手。

 

この秋「逃げ」に新境地を開き、復調してきた前年の菊花賞馬・キセキと川田将雅騎手。

 

前年のジャパンカップを制しているシュヴァルグランクリスチャン・デムーロ騎手。

 

遠く北海道は門別から久しぶりの地方馬の挑戦、ハッピーグリンと服部茂史騎手。

 

そのほかにもウインテンダネス、サトノクラウン、ガンコ、ノーブルマーズ、サウンズオブアースなどの面々が揃った。

 

そして外国馬は、愛ダービー英セントレジャーを制し凱旋門賞でも5着に入ったアイルランドのカプリ、英国からサンダリングブルーの2頭のみの参戦。

 

私が競馬を見始めた頃、30年近く前のジャパンカップといえば、出走表の半分くらいが見知らぬ名前の馬たちだったような記憶があるが、そこからすると隔世の感がある。

 

 

新聞とレースをにらめっこしているうちに、刻々とレース番号が大きくなっていく。

 

ジャパンカップ出走馬の場体重が発表され、気づけばもう出走馬がパドックを周回し始めていた。

 

本馬場入場を前に、私はメインスタンドのゴール前150mあたりで観戦することにした。

 

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アーモンドアイが先入れで入場して、歓声が沸く。

 

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他の出走馬たちも、ファンの歓声を浴びながら次々と目の前を走り去っていく。

 

あと10分少々で、発走。

 

スタンドの混雑はピークに達している。

 

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右を向いても、

 

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左を向いても、人、人、人。 

 

ざわめきと、胸の高鳴りと、緊張と。

 

この時間を、この人混みの中で観戦するのが、たまらなく好きだ。

 

指定席も、見やすいテレビ中継もいいのだが、この同じように胸の高鳴りを抑える10万人の雑踏の中にいることが好きだ。

 

そのスタートまでの数分間、私はここにいる10万人のなかのひとりになる。

 

それはそこにいる誰もが、誰かにならなくてもいい時間なのだ。

 

誰にもならなくていい。

 

そこにいる誰しもが、ただ、好きな馬を応援するだけでいい時間なのだ。

 

そうして、10万人の中のただのひとりになる時間なのだ。

 

ひとりなのだが、10万人のなかのひとりなのだ。

 

発走時刻が迫る。

 

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ファンファーレが鳴り響き、ゲートが開いた。

 

予想されていた通り、白と緑の勝負服の川田騎手とキセキがハナを主張する。

 

最内1番枠からスタートしたアーモンドアイは、行き脚がよく前目のポジションを取りに行った。

 

包まれることを懸念したクリストフ・ルメール騎手の作戦なのか、正面スタンド前を通りすぎ、1コーナーに入る頃には2、3番手のあたりの好位にいた。

 

これまでにない位置取り、引っかかっているのではないか。

 

しかし、ターフビジョンに映ったルメール騎手の手綱はしっかりと引かれ、膝は綺麗に曲がっており、アーモンドアイは気持ちよさそうに走っていた。

 

スワーヴリチャードも今回はスタートを決め、アーモンドアイの後ろで彼女をマークしている。

 

その後ろにシュヴァルグラン、そしてサトノダイヤモンドが続いた。

 

向こう正面を過ぎ、1000mの参考の通過タイムが59.9秒と表示される。

 

3コーナーから4コーナーに入り、勝負どころを迎えて各騎手の手が激しく動くも、馬群は縮まらない。

 

キセキが先頭のまま直線を迎える。

 

そのすぐ後ろを手ごたえ十分に追走するアーモンドアイ。

 

地鳴りのような大歓声とともに、14頭は坂を駆け上がってくる。

 

先頭は、白と緑の勝負服のキセキと、青地に水玉の勝負服のアーモンドアイか。

 

乾いた鞭の音と、蹄鉄の音とともに、あっという間に14頭は私の前を横切っていく。

 

青地水玉の方が、脚色がいい。

 

アーモンドアイだ。

 

ゴール板を先頭で駆け抜ける。

 

興奮のるつぼとなった大歓声が、「すごいものを観た」というため息へと徐々に変わる。

 

10万人の観客は、天才少女が現役最強へと駆け上がった瞬間を目撃したのだ。

 

一呼吸おいて、場内からもう一度どよめきが上がる。

 

勝ちタイム、2分20秒6。

 

LONGINESの青い文字が、「レコード」の赤い文字へと変わっていた。

 

従来の記録を1秒5も更新するスーパーレコード。

 

再び、「とんでもないものを観てしまった」という感覚に肌に粟が立つのを覚える。

 

ゆっくりとその興奮を鎮めるように、1コーナーの外ラチ添いからウインニング・ランをする笑顔のルメール騎手。

 

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その表情には、大仕事を成し終えた安堵と、大きな喜びが広がっていた。

 

そして2着に敗れはしたが、キセキと川田騎手の走りにも感動を覚えた。

 

前半1,000mを59秒9で入って、後続が勝負どころでも差を詰められないような、猛烈な後傾ラップを踏んだ。

 

それは、行けるところまで行く玉砕覚悟の逃げでもなく、道中で息を入れて直線に余力を残す溜め逃げでもなく、自ら意志を持ったラップを正確に刻んで後続馬を潰しにかかった逃げだった。

 

おそらくは、アーモンドアイに先着するにはこれしかないだろうという走りで、彼らもまた従来のレコードを大きく更新するタイムで2,400mを駆け抜けている。

 

キセキと川田騎手もまた、このレースの主役だった。

 

惜しむらくは、勝者はいつも一人だということだ。

 

 

思えば1989年の平成最初のジャパンカップの勝ちタイムが2分22秒2。

 

マイルチャンピオンシップから連闘のオグリキャップを、ニュージーランドの女傑・ホーリックスが直線の叩き合いでねじ伏せた伝説のレース。

 

当時の世界レコードで、「2」の並んだ特別な数字だったように記憶している。

 

それが、2005年に英国から来日したアルカセットが0.1秒更新して、不滅のレコードと呼ばれた。

 

それを、平成最後のジャパンカップでアーモンドアイは1秒5も更新したのだ。

 

そして、オグリキャップと同じように地方から調整んしてきたハッピーグリンは、そのオグリと同じ2分22秒2で駆け抜けて立派な7着。

 

そんなことを思うと、勝ちタイムとともに平成という時代の終わりを感じさせるレースだった。

 

こういうレースは、その場に立ち会えたことに感謝したくなる。

 

I was there.
You were there.
ぼくも、あなたも、そこにいた。

 

これから先、いつまでもそう言って胸を張れるレースを観られたことに、感謝したい。

 

結局この日も「いつもどおり」馬券はカラッキシだったが、そんなことは一晩寝たら忘れるのだ。

 

それよりも、このレースを現地で観たという感動は、いつまでも消えない。

 

 

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この時期の府中は、最終レースが終わると美しい夕日が見られるようだ。

 

祭りのあとの寂寥感たっぷりに、私はあの「2:20:6」のタイムの掲示板をもう一度撮っておいた。

 

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JR南武線の府中本町へ向かう歩道から、美しい夕日とわずかに富士山が見えた。

 

帰路を急ぐ雑踏の中、なぜか私は一人、その光景を眺めていた。

 

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心が動いたあとは、孤独になりたくなる。

 

そのくせ、寂しがる。

 

その動いた心を、誰かに共感してほしくなる。

 

それなのに、一人ただ目を閉じる時間が欲しくなる。

 

天邪鬼なものだ。

 

それも私だよなと思いながら、私は南武線の改札に向かって再び歩き出した。

 

ありがとう、府中。

また来よう。

 

 

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