大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

季節がめぐる、という癒しについて

人の思考というものは、気候に大きく影響される。

日照時間が少なくどんよりとした気候が多いところで、
楽天的で単純明快な思考にはならないだろうし、

年中サングラスをかけたような太陽が顔を見せる地域で、
陰鬱な哲学は発達しないだろう。

いっぽうで、四季がない亜熱帯のような地域に住んでいる人の話で、

年がら年じゅう同じような気候なので、
記憶がいつのものか分からなくなる、

ということを聞いた。

そういえばあの記憶は、何月の出来事だったのか・・・という具合に。

霞がかった空、桜の淡い色、埃っぽい東風、

薫る風、新芽の力強さ、

蝉の声、焼けるような陽射し、

鈴虫の音、ススキの匂い、

にぎやかな月、透き通った空の色、

凍てつく空気の触感、かじかむ耳の痛み、

鍋の煮える音、寂しい夕暮れ、

どの言葉にも、その風景を補完する記憶が浮かんでくる。

人の記憶や思考は、気候や四季と深く結びついている。

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日に日に秋が深まっている。

朝日の昇る方角が少しずつ冬の位置に近づいてきているし、少しずつ木々の葉も色づき始め、錦秋という言葉がよく似合う季節が近づく。

朝、家を出るとひんやりとした空気が肌を覆うのが気持ちよく、なかなか半袖から衣替えできずにいる。

見上げれば、秋らしく透き通った青空と何かが通ったような一本線。

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足元には、土色の蛙が跳ねていた。

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冬ごもりの準備は進んでいるのだろうか。

日に日に気温が上がっていく「小満」の節気は、よくも悪くも急き立てられるような感覚を覚えることがある。

けれど、この秋の深まりというのは、湯を沸かした薬缶が時間とともに冷めていくように、自然で心地よい。

少しずつ、それでいて確実に閉じていく世界。

夏から秋へ。秋から冬は。昼から夜へ。

動から静へ。陽から陰へ。

生から死へ。

一歩ずつ、一歩ずつ季節の螺旋はめぐっていく。

その螺旋に、人は一つずつ記憶を刻んでいくのだろう。

今日も、季節はめぐる。

戻らないように見えるそれは、

大きな癒しのようにも見える。

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