つれづれ
鋭い痛みが、左の親指に走った。 やってしまったと、瞬間的に思った。 調味料のガラス瓶の蓋のプラスチックの部分を、ゴミの分別のため外そうとしていた。 横着をして、手近にあったフォークの先を使って外そうとしたが、思いのほか、その蓋は固かった。 何…
大寒波が訪れた週末だったが、よく晴れていた。 午前8時の時点で気温はまだ氷点下だったが、晴れていると外に誘われるものだ。 せっかくなのでと、昼過ぎに富士山の遊具がある近所の公園を、息子と娘と訪れる。 午後になって4℃まで気温は上がっていたが、そ…
強さにも、いろんな種類の強さがある。 分かりやすい筋力、腕力といった強さ。 逆境や不運にもめげない、負けない強さ。 初心貫徹、一つの決めたことをやり遂げる強さ。 そのあたりは、誰が見ても分かりやすい。 あるいは、その逆もまた、強さの一つだと言え…
何かを続けていると、わかることがある。 わからないことも、もちろんあるけれど。 それでも、続けているとわかることもある。 多くの場合、それは「違和感」としてやってくる。 続けることは、内省の一部なのではないかと感じる。 = 違和感に気づいたから…
晴れの日と、 雨の日と、 曇りの日と。 密かに想いを寄せる男子から、どれが一番好きかを聞かれる。 そんな名場面が、アニメ映画であった。 問われた主人公は、確か「曇りの日」と答えたような。 冬晴れの空を眺めながら、そんな甘酸っぱい場面を思い出す。 …
その日は墓参りに行く予定にしていた。 息子と娘はついてくるとは言っていたが、当日になると「遠い、めんどくさい」とぐずぐずと言い出す。 私は朝から少し感傷的になっていたのだろう。 「だったら最初からそう言え。予定決めた後で言うな」と怒ってしまう…
幼いころの夢を、叶えること。 それは、かくも心を豊かにしてくれるものだと感じる。 どんなくだらないことで、どんな些細なことでも、大人になったいまの自分ができることをしてあげるのは、こころが満たされる。 そしてそれは、次々と循環していく。 童心…
実家で暮らしていたころ。 そう、高校生くらいになるのだが。 そのころの私にとって、名古屋市内というのは、大都会も大都会だった。 東京は、もはや外国に近い感覚があったが、名古屋は身近な大都会だった。 どうも、中学生くらいのころの、「名古屋に行く…
たとえば、どこかのある土地を訪れる。 もしかしたら、それは、ずっと訪れたかった場所かもしれない。 たとえば、だれかある人と会う。 もしかしたら、それは、とても憧れていた人かもしれない。 たとえば、ある何がしかの体験をする。 もしかしたら、それは…
そこに、いる。 いつもの川沿い、いつもの夜。 いつもの空に、いつもの月。 そこに、いるのだ。 遠目からは、黄色い傘を広げたようにも見える。 周りの風景から、そこだけ浮き上がるかのような、その一角。 ぼんやりと、どこか霧の中に浮かんでいるようにも…
たとえば、初めて通ったはずの道に、既視感を覚えることがある。 いつか、通った道。 あれは、いつ、通ったのだろう。 何の機会に、誰と通ったのだったのだろう。 そんなことを考えるのだが、初めて訪れたはずの土地を、誰かと通ったことがあるはずもなく。 …
たとえば、以前にとても親しかった友人に、久しぶりに会ったとき。 それまで会っていなかった何年、何十年という時間を飛び越えて、話し込んでしまうときがある。 もちろんお互いに会わなかった時間の分、歳を重ねているのだが、どこか、その当時に戻ってし…
あれは小学生の頃だっただろうか。 小学校の図書館で見つけたのだと思う。 「世界のいろんな人たち」だったか、「ギネスブックの記録」だったか忘れたが、とにかく世界中のいろんな変わった人たちの記録が載った本があった。 漫画のような挿絵が半分入ってい…
仙台の友人を訪ねて行ったことがあった。 仮にその友人をナカタとする。 あれは、たしか9月に入った長い夏休みの終わり際だったと思う。 学生だった当時、神奈川県に下宿していた私は、同郷で仙台に下宿していたナカタを訪ねて行った。 予定もなく、暇だった…
雨が降ると、音がする。 傘を叩く音。 その音符。 木々の葉に触れる音。 そのざわめき。 土に吸い込まれていく音。 そのやわらかさ。 雨が降ると、音がする。 音がすると、思い出す。 = たとえば、ある音を聴くと、ある種の記憶がありありと思い出されたり…
「嫉妬」という漢字は、なぜ両方に女偏がつくのだろう。 女に、疾。 女に、石。 たとえば、「妊娠」は分かる。 広く見れば雌雄同体などの性質を持つ生き物もいるが、ヒト科においては女性にしかできない所業である。 「妊娠」が女偏二つなのは分かる。 だが…
家の中は、自分の心理状態とリンクしているとはよく言われる。 深層意識の部分が癒されると、押し入れや物置の中を掃除したくなったりする。 あるいは、その逆も然りで、見えない部分を整理したり掃除したりすると、妙に気分がスッキリしたりする。 時に、自…
雨が上がったので、走りに出る。 濡れた路面に気を付けながら、ゆっくりとしたペースで走るも、どうも身体が重い。 頭の中の感覚との違いに戸惑い、なぜだろう。 体調が悪いわけではなく、睡眠不足でもなく、怪我をしているわけでもなく。 少し走ってから、…
少し遅くなって帰宅すると、テーブルの上にノートと書き置きがあった。 「一つ かいたよ みてね」 ピンクのノートは、以前娘と交換日記をしていたノートだった。 久しぶりに、娘は私宛に書いてくれたようだ。 ノートに記された娘の今日の一日を読みながら、…
ストレッチをはじめて、2か月が過ぎた。 人間の習慣とは面白いもので、いったん習慣化してしまうと、やらないと気持ちが悪くなる。 朝起きて顔を洗ったり、歯を磨いたりすることも、同じようなものなのだろうか。 寝る前に、20~30分ほど、深く息を吸い、深…
ときに、人は好きなことをしていると、なぜか褒められ感謝される出来事に出逢う。 ただ、何の打算も、犠牲も取引もなく。 ただ、それをしているだけで、周りが喜んで笑顔になってくれる。 ときに、そんなことがある。 何度か、そういった経験が重なる。 する…
少しサボっていたランニングに出ようと、軽く準備運動としてストレッチをした。 ランニングに出るときの、いつものルーチンだ。 頭の後ろで右手を曲げて、肘を左手で引いたときだった。 明らかに、感覚が違っていた。 以前に比べて、肩の可動域が広がったよ…
赤トンボが舞っていた。 遠くで、ツクツクボウシが歌っていた。 川沿いを歩く、秋の夕暮れ。 音と、色。 そして、匂い。 季節を感じるのは、そんなところだろうか。 不意に、野太い羽音が、通り過ぎた。 前方を見遣ると、丸々とした黄色と黒の腹が見えた。 …
京都の名勝に、「哲学の道」がある。 戦前の日本哲学界の巨人、西田幾太郎氏が思索にふけりながら歩いたことから、その名が付けられたと聞く。 桜が咲き誇る春から、新緑、初夏、紅葉、そして雪の降り積もる冬と、四季折々の姿が美しい小径である。 私が訪れ…
記憶は、頭の中のどこか片隅にある。 感情は、心の中のどこかやわらかい場所にある。 本当に、そうだろうか。 時に、風に揺れる木の葉が記憶を預かっていても、不思議ではないような気もする。 時に、萎れた花弁に感情が宿っていても、それはそうだろうとも…
かつて横山秀夫さんが、その小説の中で「電話はかけた方が絶対的に有利だ」と書いておられた。 全くその通りだと思う。 伝えたい内容を自分のタイミングで、相手にアプローチするのだから、当然の話だ。 けれど、ほぼすべての連絡がメールやチャットといった…
かつて、アンリ・マティスは、教え子にデッサンの講義をする際に、こんな風に伝えたと聞いた。 「人がメロンのことを話すとき『こんなに大きなメロンがあってね!』と空中に両腕で丸い線を描いてみせる。 そこに二つの線が、同時に現れる。 それらの線が囲む…
人の心の成長は、「依存→自立→相互依存」というプロセスをたどる。 これは、個人の心の成長においてもそうであるし、誰かや何かとの関係性においても、同じようなプロセスをたどる。 生まれ落ちたとき、何か新しいことを始めたとき、いままでと違う環境に身…
「まあ、こういうのはやっぱりメンテナンスに労力がかかるんもんですよ。ほら、人間関係も、良好なものを続けようとすると、何かとコストがかかるじゃないですか」 サブスクリプションの課金モデルについての箇所に差し掛かったとき、その営業の担当者は軽く…
振り向かなくても 何処かで愛していたはずさ 覚めないつづきを いいだけ苦しんでいたはずさ 僕のすべて 君のすべて 今日のすべて 今のすべて CHAGE and ASKAの「HEART」の歌い出しは、どこか語りかけるようだ。 そのワンフレーズ目は、聴く者に問いかける。 …