大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

手を振る人へ。

睦月の古都の日没は早い。

夕闇はあたりを包み、新月の今夜は月明かりもない。

またあの時間が近づいてきた。

この時間が終わるのは、いやだ。

サヨナラを言うのも、いやだ。

また一人になるのも、いやだ。

靴の裏にまるで接着剤が貼りついたかのように、

僕は殊更ゆっくりとしか歩けない。

けれど、ついに目に入ってきた地下鉄への入り口からは、
ドナドナの曲が聴こえてきそうだった。

不意に微笑みを浮かべながら、肩を並べてくれて、

楽しそうに親類の子の話をしてくれた。

けれども悲しいかな僕の頭は、

楽しかった一日のキックバックのような寂しさと、

次にいつ会えるのかばかりを考えていた。

「いま」を大切にしようなどと言っていながら、

いやいや全然、まったく、過去に未来に心は裂かれ、

「いま」を生きるなんてできてりゃしない。

寂しさ、は僕の人生の中でも

指折りの長さを誇る旧友だ。

それは二十歳過ぎに起こった、両親との

突然の別離から始まったように思っていたが、

どうもそうでもないらしい。

f:id:kappou_oosaki:20190106212812j:plain

もっと昔から、この悪友は私の隣にいたようだ。

だからというわけではないだろうが、

5、6人という団体での移動が苦手だった。

その人数で道を歩いていると、

気づくと私は一人になった。

奇数のときは分かるのだが、
なぜか偶数のときでも、2+3+1になるのだ。

なぜだか、わからないのだが。

そんなとき、

肩を並べて前を歩く友人たちを眺めながら、

すきま風のように吹く寂しさに、

私はいつも身をすくめてきた。

どうも、今日はそうならなかった。

f:id:kappou_oosaki:20190106214135j:plain

フルマラソンを走るためのトレーニングがどうだとか、

自分の野良猫っぷりに気付いて笑えるとか、

白紙の未来がどうだとか、

地図が読めないだとか、

ずっとそんな話をしていた。

なにより、二重のつぶらな瞳の天使は、
その小さな手を僕に差し出してくれた。

階段を降りて改札へ向かうほのかに暗い空間が、

ドラゴンボールの「精神と時の部屋」だったら、

どれだけいいだろう。

たしか、あれは一生の中で二日間しか入れなかったっけ。

だとしたら、迷わず48時間を選ぶんだろうな。

そんなめんどくさいことを考えながら、
僕はせっせと足の裏の接着剤を剥がしていく。

サヨナラが嫌いで、

別れの挨拶が嫌いで、

それでも感謝を伝えたくて。

何度も何度も手を振った。

目に映る、微笑みとともに揺れるその指先が、

すこし滲んで見えた。

一人、鶴舞線の揺れに身を任せながら、
僕はちゃんと聞けばよかったのかもと思いはじめる。

僕は、今日ここにいてもよかったですか。

つまらなく、なかったですか。

大事な一日を、無駄にしてしまわなかったですか。

自分の心の底の無価値観から、そんな問いが滲み出てくる。

やっぱり僕は、めんどくさい男だな。

それにしても一日よく歩いたせいか、足が張っている。

ぼんやりと太腿を軽く親指で押しながら、

僕が伝えたかったのは、

そんなことじゃないよな、と思い直した。

いつもその言葉たちを照れずに言えたなら、

誇れる自分でいられるように思う。

けれど、同じ場面を与えられることは二度とない。

その一瞬一瞬に、その人の生きざまは決まる。

いつもその行動力に引っ張られている、ありがとう。

来週末そして建国記念日のイベント、心から応援しています。

リーダーシップを見せてくれて、ありがとう。

その白紙の未来に、過去のどんな名作よりも素敵な物語を描いてください。

双子の写真見せてくれて、ありがとう。

僕の息子と娘も、そんなふうに仲のいいきょうだいで育ってくれるといいな。 

いつも愛のあふれるコメント、ありがとう。

縁があって同じ船に乗れて、とても嬉しく思っています。

札幌で声をかけてくれて、ありがとう。

ブログ読んでますって言葉を聞けただけで、何かが弾けて浄化されました。

そして、小さな天使さん。

あっちむいてホイしてくれて、ありがとう。

とても愛情あふれた眼をしていて、癒されたよ。

こんどは、ちゃんと言えるといいな。

そのときまで、きっとサヨナラは

言わないでいいんだろうな、などと思った。

f:id:kappou_oosaki:20190106212757j:plain