大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

弱き者よ、汝の名は… ~福岡伸一先生「できそこないの男たち」に寄せて

先日、ししゃもを頂く機会がありました。

一般に卵を持つメスの方が好まれますが、オスの「ぎゅっ」と詰まった身も美味しいものです。本ししゃもならではですね。

オスとメス。

同じししゃもなのに、不思議なものです。

今日はそんなオスとメス、男と女にまつわる言の葉を。


 

挑戦的なタイトルだけど、いつも呑み過ぎて潰れてしまう私の事ではありません。ベストセラーになった「生物と無生物のあいだ」の福岡伸一先生の著作。

20世紀後半から加速度的に研究が進んだ遺伝子工学・分子生物学がドラマティックに明らかにしたもの。それは生命の基本仕様は女であり、これまでずっと生命を紡いできた縦糸は女系であり、男はその多様性をつなぐための横糸でしかないということ。

卵子は受精後にまず女としての仕様で分裂が進み、特定の遺伝子を持つ精子と受精した卵子だけが、その後男としてカスタマイズされる。

つまり生まれながらにしての男というものは原理的に存在し得ず、全ての男は女として生まれた後に作り替えられるという事実。だから男性の生殖器には、分化の過程で無理やり「縫い合わせた跡」がある。

世界中のどの地域で女性よりも男性の方が短命なのは、仕事や文化的な外的要素からではなく、生命本来の仕様からカスタマイズしているから脆いのだという、我々男性からすると身もふたもない話。

 

まあ、実際そうだよなぁ。

どれだけ虚勢をはっても、背中のチャックを開けると女性以上に女々しくてうじうじ湿ってるのが男。

どれだけ可憐なお姫さまでも、メイクの下は男性以上に果断で勇気があって44マグナムを持っているのが女。

ハムレットとは逆が真理だ。

弱きものよ、汝の名は男なり。

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2017.8.16


 

福岡伸一先生。

私の好きな作家のお一人です。

生物学の第一線の研究者ながら、その文章はどこか詩的で文系には難しいはずの内容も、分かった気にさせられます。難しい内容を、わかりやすく書くこと。そんな困難なことを軽々とされておられるのが、福岡先生の文章です。

 

さて、本書の内容の男と女。

男は強くないといけない。

弱みを見せてはいけない。

泣いてはいけない。

女性を守らないといけない。

我々男性は、社会的にそのような刷り込みをされて育ちます。それによって強くなれることもあれば、逆にそのルールが苦しくなることもあるでしょう。

 

そうした刷り込みや観念は、本書を読んだ後では

「廊下を走ってはいけません」

「交通ルールを守りましょう」

「呑み過ぎ注意」

と同じ匂いがします。

そうした標語があること自体、

・・・そうですね、実態が逆であるからこそ、なのでしょうね。

 

我々男性にとっては、なかなかに肩身の狭い話ではありますが・・・

・・・え、私ですか?

そりゃもう、背中のチャック開けたら、完璧な5歳児です。ばぶぅ、だっこー、おんぶー、です。男性は皆そうなのかもしれないですね。

 

けれど、

その男性の弱さや幼さを、彼らの特性と、女性が見ることができたら、

また、

その女性のわがままやリアリティを、彼女らの特性と、男性が捉えることができたら、

もう少し肩の力を抜けるのかもしれません。

 

「彼氏、彼女」は「遥か彼方の氏、女」と書きます。

その遥かな距離に橋を架けるのは、何万光年の彼方から信号を送る宇宙人を理解しようとするスタンスくらいで、ちょうどいいくらいなのかもしれません。

そんな遥かな距離に思いを馳せながら、どうぞごゆっくりおすごしください。